普段どんなふうにお仕事をされているのでしょうか?
この作品は連載媒体があるわけではないんですが、エピソードごとに描いています。結果的には、日本の週刊誌や月刊誌で仕事をするのと同じような感じになっていると思います。エピソードごとに描いている理由は、少しでも好きな日本のマンガに近づけたいからですが、結局、このやり方が自分にとって自然なんだと思います。数日間かけてストーリーを考え、それから下書きをして、ペン入れを行います。作業はアナログで、紙にペンとインクを使って描いています。アシスタントがいるわけではないので、日本のマンガ家さんと比べると、作業速度はずっと遅いと思います。 |
キャラクターはどうやって作られるのですか?
主人公のセトについては、もともとある程度ビジュアルが決まっていたのですが、どうもしっくりきませんでした。彼のつっぱしりがちだけど、他人から悪く思われるのを気にする繊細な面もあるという性格が決まって、初めて彼をうまく描けるようになりましたね。その他、重要な女性キャラクターが2人、年配のアルマと若いメリがいます。アルマは主人公の養母的存在。主人公のすぐ近くに誰かがいないとまずいなと思って作ったキャラです。ひょっとして誰か既にこういうキャラを描いたマンガ家がいるんじゃないかと心配だったんですが、本棚を見直して、とりあえずいなそうだったので、ホッとしました。キャラを作るときは、オリジナリティを大切にしています。シルエットだけでもすぐにわかるのが理想で、その点、もうひとりの女性キャラ、メリはあのカールした髪の毛の大きな房ですぐに見分けられるので、うまくいったかなと思っています。髪の毛を大きくしすぎちゃって、実際にはありえない感じになってるかもしれませんが、個人的にはすごく気に入っています。 |
衣装デザインも凝っていますね。
オリジナリティということと関わってくるんですが、すべてのキャラクターに固有な特徴を与えようとしています。例えば、異端審問官には、大きなひだ襟がついた制服を着せて、ちょっと滑稽な感じも出すとか。セトは中世風な感じも出したくて、袖のない服を着せました。僕は城塞の形が好きなんですが、こうすると、どこか城塞っぽくないですか? 一方で、彼の服装は、フード付きのスエットにジーンズのショートパンツという感じで、今風でもあります。今風な要素は、読者に共感してもらう上で大切だと思っています。日本の少年マンガのいいところは、どんな世界が舞台でも、キャラクターたちがとても具体的だという点です。たとえファンタジーの世界の出来事だとしても、私たちは彼らがまるで仲間であるかのように、まるですぐ隣にいるかのように、その存在を信じることができます。僕のマンガもそういうふうであったらいいなと思っています。 |
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仕事のペースはどんな感じでしょう?
ひとりで作業していることもあって、180ページのマンガに6、7カ月かかります。ただ、ちょっと手直しがあったり、作業の遅れがあったりしますから、たいていさらに数カ月ずれます。今のところだいたい10カ月か11カ月で単行本1冊ができあがるという感じでしょうか。ただ描くだけなら、半年で1冊分というところです。 |
日本では編集者も
マンガ制作の重要な役割を果たします。
トニーさんの場合はいかがですか?
僕が知る限りフランスでは、編集者は日本ほどマンガ制作の中心的な役割を果たしてはいません。例えば、『ラディアン』に修正を加える場合、それは僕が修正したいからで、そこに編集者が介入することはありません。もちろんフランスでも、編集者が作者にここを変えてくれとか微調整してくれと言ってくることはあるでしょうが、極めて稀だと思います。僕の場合、自分ひとりでマンガを全部制作し、だいたい数カ月に一度、1章分が完全に完成してから初めて編集者に送ります。編集者は原稿を受け取ったという返事はよこしますが、内容についてどうこう言うことはありません。僕はそういう仕事の仕方が好きなんです。仲間の中には、日本式のやりかたを採用している作家もいますよ。作家がアイディアを電話で話し、編集者が意見を言い、その意見交換をもとにストーリーを決定します。下書きができればそれを見せ、原稿が完成してからも、最後までセリフの調整をするんだそうです。 |
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