国際化するBD
ユマノイドは、BDの歴史を画す作品をいくつも出版してきました。メビウスの次の世代を代表する作家ニコラ・ド・クレシーの作品を世に出したのもその功績。彼の代表作『天空のビバンドム』の第1巻は1994年に出版されるや、ツウのBDファンの間に大反響を巻き起こしました。あの圧倒的なページの数をまだご覧になっていない方は、ぜひご覧になってみてください。日本のマンガの対極にあるような画風に、唖然とすること請け合いですよ!
実は、ニコラ・ド・クレシーは、さまざまな技法に挑戦した挙句、BDではやれることは全部やりきったと感じ、一度は断筆宣言までしてしまいました。ところが、その彼がなんと2014年に日本のマンガ誌『ウルトラジャンプ』で連載を開始したのです。その名も『プロレス狂想曲』。フランスには作品を連載するための雑誌がほとんど存在せず、多くのBDが単行本描き下ろしなのですが、そんな彼にとって、連載というのは新たなチャレンジでした。また、日本のマンガに特有なアクションとテンポも彼をひきつけたようです。2014年8月号から始まった連載は、2015年3月号で無事終了。2015年4月には単行本が刊行されました。
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『プロレス狂想曲』 |
ニコラ・ド・クレシーが『ウルトラジャンプ』で連載するようになったきっかけは、2013年の秋に行われた海外マンガフェスタでした。“海外マンガフェスタ”とは2012年から行われている、日本のマンガと海外マンガの架け橋となるイベントのこと。実は、僕はこのイベントの委員長も務めています。その年、ニコラ・ド・クレシーは海外マンガフェスタやその他のイベントで松本大洋先生と真島ヒロ先生と対談し、両先生との交流を通じて、大いに刺激を受け、日本での連載を決めたのでした。海外マンガフェスタは今年も11月15日(日)に開催されます。皆さん、ぜひご来場ください! |
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実は、フランスでもこれと似たようなことが数年前から起きています。そう、フランスでBDを発表する日本のマンガ家さんが登場してきているのです! 有名マンガ家では、荒木飛呂彦先生と谷口ジロー先生が、ともにルーヴル美術館を題材にして『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』と『千年の翼、百年の夢』を出版なさっています。どちらも日本語版が出ていますが、元はフランスで出版されたんですよ。元々フランスは、ヨーロッパ最大のマンガ市場であり、ヨーロッパ中の作家たちが活躍していました。例えば、既に紹介した『ブラックサッド』の作者ガルニドとカナレスはどちらもスペイン人です。ところが、インターネットの普及後、日本人作家や韓国人、中国人作家にも、その扉が開かれるようになりつつあるのです。
一方、日本のマンガやアニメの普及に伴い、フランス人でありながら、日本のマンガのスタイルに憧れて、マンガ風の作品を描く若い作家たちも増えてきつつあります。例えば、『塩素の味』(小学館集英社プロダクション)というBDでメディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した作家バスティアン・ヴィヴェスは、サンラヴィルとバラックという仲間と一緒に、『ラストマン』という日本マンガ風の作品を描いています。この作品は、開きこそBDと同じ左開きですが、基本白黒で巻頭カラーがあるといった形式的な面から、キャラクターの造形やアクションの多い物語展開といった内容面まで、いろいろな点で日本のマンガを参照しています。何しろ彼らは、大場つぐみ先生と小畑健先生の『バクマン。』に影響を受けて、チームとしてマンガを描き始めたのです! |

『ラストマン』 |
それだけではありません。なんと開きまで日本のマンガと同じ右開きにしてしまったMangaメイド・イン・フランスがいくつも存在しています。これらの作品は、今までなかなか翻訳出版されてきませんでしたが、この度ついに、ユーロマンガ(発売:飛鳥新社)が、近年の大注目作トニー・ヴァレントの『ラディアン』を翻訳出版することになりました! 日本語版発売を記念して、作者のトニー・ヴァレントにインタビューを敢行。以下に掲載しますので、あわせてお楽しみください。
こうした例からもわかるように、BDは今や国際化の時代に突入しています! 新時代のBDは、もはや日本のマンガやアメコミと区別する必要のない、世界中の誰もが読める作品なのかもしれません。時代の波に乗り遅れないためにも、ぜひトニー・ヴァレントの『ラディアン』をチェックしてくださいね!
フレデリック・トゥルモンドでした。 |
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