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■で、結局おたく文化は世界を救うのか?
助手:で、そのおたく文化って「世界を救って」くれるんでしょうか。
増田:その方向にいくと思いますよ。少女漫画を例にとりましょうか。エリートとしておたく思想を自分の国で広めようとしている人たちの存在は鼻持ちならないかもしれませんが、そういう人たちを媒介として、少女漫画という普通の女性が普通の女性の持つ悩みに正面から向き合えるメディアが普及するわけで、それを読む外国の若い女の子たちがいままでになかったものに触れて少し変わっていく、というのはいいことだと思います。とにかく欧米社会は、たとえば夫による妻の暴力的虐待が日本とは桁違いに多い社会なんですよ、実は。そういうものを耐え忍んできた女性たちにとって、こういう表現媒体っていままで一切なかった。女性でも知的エリートになると、いろいろな文学や演劇や視覚芸術から聴覚芸術、ありとあらゆるものが用意されていて、それを鑑賞し享受する能力のある人にとってはいい社会だけれども、ごくごく普通の大衆が難しい文学やまじめな演劇を見るわけはないので、そういう層の人たちにとって自分たちの日常の悩みを対象化できるようなメディアっていままでなかった。でもそれは少しずつ育ってきている。たとえば「NANA」とか「ハチミツとクローバー」なんかを英訳すると、固定の読者層がついてくるんですよね。それはすばらしいことだと思いますけどね。
共信:ちょっと愚問なんですけど、どうして世界を救わなくっちゃいけないのかな、と思ってしまったんですが。
増田:だって戦争のない社会のほうがいいし、日本型ヒーローが世界で広く認知されて、戦争になったときにも相手には相手の論理があるんだと疑って、引き金を引くときにそっぽ向いて引く人が増えて欲しいな、ということなんですけれどね。
助手:ただあとがきでも危惧されていらっしゃいますが、経済的に「救う」話なのかと誤解される方も少なくないと思うんです。世界経済の破綻を日本のおたく文化が救ってくれるのか?みたいな…。
増田:先にも述べたように、日本型ヒーローのあり方は、日本の大衆は漫画やアニメを通じて日常感覚として知っています。でも、知的エリート独裁社会にとっては、それは革命的思想なんです。日本の漫画やアニメを海外に輸出することは、すなわち革命思想を海外に輸出することです。だから、そんなもん金儲けになるわけがない。それで金まで儲かったら、話がうますぎます。輸出するときにはコンテンツ自体は薄利多売で売られるでしょうから、日本経済にとって意味のある貢献をするほどの金が稼げるわけはないです。ただ、たとえばアメリカでDVDの売り上げ1位になった『攻殻機動隊』では、女性がヒーローでしかも最後に悪の化身と合体するわけですよね。こんなことはアメリカン・コミックスの世界ではなかったから、新鮮なショックを受けたわけで。ということは、そのDVDの売り上げで押井守さん個人なりにどんな儲けがあったかよりも、はるかに意味のあることだと思うんです。
共信:それでは最後に、読者にメッセージをお願いします。
増田:別にないんですけどねえ(笑い)。自分の好きなことを一生懸命やってください。サークルさんはそれぞれに面白いものをつくり、一般参加者さんは好きなものを一生懸命探して買って、それで全体としてマーケットを続けていって欲しい、ということですね。
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協力:増田悦佐、株式会社宝島社、代打BARA、コミックマーケット準備会
(以上敬称略)
編集:飯島修司
企画制作:AIDE新聞編集部
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