−日本館をご覧になった、率直な感想を聞かせてください。 |
西山:現在の建築論でよく言われるのは、いわゆる箱=建物が重要なのではなく、「ソフト」の方が非常に重要であるという考え方です。日本館の展示は、まさにその極限的な部分を突いている展示だと思います。僕のいるフランスでも、マンガやアニメといった日本の一部のスタイルは、広く受け入れられており、ファンがたくさんいます。そういう状況を、このパビリオンの場で表現したことで、ある種の面白い提議ができたのではないでしょうか。
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冨川:建築をやっている立場として、日本のおたく文化が海外に発信された際どのように受け入れられるか、とても興味がありましたが、こうして建築展として展示されてみると、とてもインパクトがあって、日本人の自分にとっても、あるメッセージが受け取れるものだと感じました。建物そのものではなく、その背景にあるライフスタイル、生活習慣や生活文化をテーマにしているので、たくさんある展示方法の選択肢のひとつとして、個人的にとても面白いと思います。 |
−「メッセージ性」とは、具体的にどんなメッセージを感じたのですか? |
冨川:例えば僕らが建築物をつくるときは、どんな部屋にしたい、どんな窓をつけ、どんな光が入るといいか、などとアイディアを練るわけですが、マンガやアニメをつくる人も、同じようにどんなストーリーや場面、キャラクターがいいかアイディアを考えるわけで、頭の中で構想を練るプロセスの部分は、どちらも多分同じことなんです。 |
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結果として現実にアウトプットされたものが、僕らの場合は建物で、他のある人はアニメ作品であるだけで、その違いは、個人の生活やバックグラウンドから導き出されてくるのだと思います。鋭い感性を持ち、またさまざまなアウトプットのかたちを持つ人たちが集まって、強いインパクトを打ちだしているのが、今回の日本館ではないでしょうか。でも、建築がどうこうというより、客観的に観るときは「どのくらい心に残る展示だったか」が特に大切だと思うので、そういう意味では、後々まで印象に残る展示だなと思いました。 |
西山:あれをひとつの文化として表現するのも、あっていいと思います。ただ心配なのは、あれが全てだと思われたら困るかな? |
冨川:(おたく文化も)日本のいろいろな文化のひとつですからね。ひとつの国の文化はひとつだけではないし、ああいう文化もあって、やっている人がいる、そのことを日本館で今回たまたま切り取って、見せているわけですから。 |
西山:でも、あれはアリなのかナシなのか?といえば、アリなんでしょうね。僕もガンダム世代ですから、展示されていたフィギュアに反応してしまいました(笑い)。 |
−おたく文化と建築との関連性というか、共通点って、どんなことだと思いますか? |
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西山:これまでの建築を考えると、コーディネートしたり、建築材料を選んだりなどは、プロ建築家の職能−知識・ノウハウ・技術などーに頼っていました。でもおたくの部屋では、その職能を介さずに、例えば壁紙はマンガの背表紙に、置物はフィギュアに取って代わられ、コレクション自体がインテリアデザインと化している、つまり自分の好きなものに囲まれて生活することが、ひとつの快感として成立しています。 |
おたくの部屋は、建築が長い年月をかけて追い求めていたものを、先取りして実現してしまったのではないでしょうか。そう考えると、今はもう、建築の職能が役に立たない時代になったのではと思います。空間全体をひとつのテーマに沿って、自分の理想通りつくろうとするのは、おたくの空間も建築も同じことですから。 |
−なるほど!そうなのか…。 |
西山:僕自身は、もうすぐ日本に帰って独立するのですが、これからは、建築の固定概念にとらわれない空間プロデュース的な仕事をやりたいと考えています。例えばフランスを題材にするなら、食材やワインを探すところから、どんなインテリア、どんな食器、どんなメニューを用意するかまで、その空間で行なわれること全体をコーディネートしてみたいんです。極端なことをいえば、建築家がそこでDJをやってもいい、DJだって音楽によって空間の空気を染める仕事ですからね。そんなふうに、空間に関わる総合的な仕事のできる建築家を目指しています。 |